トップ > 作品 > ものろおぐ
ものろおぐ
月夜見

「月夜見」ブロンズ社 1981年9月10日 B6版上製(ISBNなし)

初出誌
『ガロ』1979年5月号 1979.5.1 青林堂 p57~66 10p
内容
男に別れ話を切り出された女の独り言。
コメント
近藤ようこ先生のデビュー作とされている作品。エッセイ集「後には脱兎の如し」のプロフィールには“「灰色の風景」でデビュー”とされている。“「ものろおぐ」でデビュー”は商業誌に掲載された初めての作品という意味では正しいが、投稿した作品がそのまま掲載されただけで、ノーギャラだったため、『劇画アリス』で仕事として初めて掲載された作品をデビュー作とすべきかもしれない。ただ、「灰色の風景」は同じくこの「月夜見」という単行本に収録されてはいるものの、「かごめかごめ」など、もっと早い時期に掲載された作品もある。その辺を厳密に追求していくと、少々面倒なことになる。だから「ものろおぐ」でデビュー、とすることはやむを得ないかもしれない。けれど、「ガロ」でデビュー、とついてまわるのは、雑誌としてのイメージが強過ぎるため、リスクもある。アングラから出てきたという印象がどうしてもする。一方で、「劇画アリス」にしてしまい、劇画出身というのもなかなか微妙に違う気もして、難しい。「ガロ」3人娘なんてよばれていた時代もあるのだから、「ガロ」を避ける必要性もないのかもしれない…などと勝手なことを考えている。
近藤先生は少なくとも高校生から、おそらくはその前から漫画を描き続けてこられたのだけれど、それにしても大学4年生のときに描いて、初めて投稿した作品が入選し、デビューしたというのは、なかなかない話ではないだろうか。以後アシスタント経験もなく、一人でこつこつと作品を描き続けて来られた。私の知る限り、同人などに参加されたこともないと思う。「どこも載せてくれなくても好きなものを描けばいい」とはお考えになっていない。この作品を投稿しようとなさったときの動機である「生活のために描く」というところに、強い矜持をもっておられることをずっと感じてきた。
この作品の冒頭の男に顔を隠すときの目線が入っている。男の匿名性を感じる。1979年という時代の空気とはどんなふうだったのだろうか。私にはわからないけれど、きっとこのアンニュイな感じに反映されているに違いない。指の傷が治っていることで心の傷も治っていると感じるのは、いささか短絡的だろうか?

2014.8.7

作品トップへ